障害者雇用を進めるものの、「採用してもすぐに辞めてしまう」「どうすれば定着率が向上するのか」とお悩みの人事担当者様は多いのではないでしょうか?
実は、障害者雇用の定着率が高い企業には、「採用段階での丁寧な相互理解」「全社的な受け入れ体制」「入社後の継続的なフォロー」という3つの明確な共通点があります。
本記事では、この3つの共通点を軸に、障がいのある社員が長く活躍できる職場づくりのポイントを徹底解説。明日から実践できる具体的な施策から、活用できる外部支援サービスまで網羅的に紹介し、貴社の課題解決をサポートします。
この記事を読むと分かること
- 障害者雇用の定着率が低くなる原因とは?
- 定着率が高い企業にはどんな共通点があるの?
- 障害者雇用の定着率を向上させる具体的な対策とは?
障害者雇用の定着率の現状とよくある課題とは?
現実では多くの企業が障がいのある社員の早期離職という課題に直面しています。
まずは、障害者雇用の定着率に関する現状のデータと、離職につながりやすい課題について見ていきましょう。
障害種別|現状の障害者雇用の職場定着率データ
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査によると、就職後1年時点での職場定着率は、障害種別によって差が見られます。
身体障害や知的障害の定着率が比較的高い一方で、精神障害の定着率は他の障害種別に比べて低い傾向にあります。
特に近年、雇用者数が増加している精神障害者や発達障害者の定着支援は、企業にとって課題となっています。このデータは、障害特性に応じたきめ細やかな配慮や支援体制の重要性を示唆しています。
なぜ障がいのある社員は早期離職しやすいのか?
では、なぜ障がいのある社員は早期に離職してしまうのでしょうか。その背景には、企業側と本人側の双方に起因する、いくつかの典型的な課題が存在します。ここでは代表的な3つの原因を解説します。
職場でのコミュニケーション不足
早期離職の最も大きな原因の一つが、職場でのコミュニケーションに関する問題です。周囲の社員が「どのように接したらよいかわからない」と感じ、結果的に必要な声かけや業務上の報告・連絡・相談が不足しがちになります。
また、障がいのある社員自身も、困りごとや体調の変化を誰に、どのように伝えればよいか分からず、一人で問題を抱え込んでしまうケースが少なくありません。こうしたコミュニケーションの齟齬が、徐々に孤立感や業務への支障を生み、離職へとつながっていきます。
業務内容と本人の特性のミスマッチ
採用段階での相互理解が不十分なまま入社すると、業務内容と本人の能力や障害特性との間にミスマッチが生じやすくなります。
例えば、本人の得意なこと・苦手なことを考慮せずに業務を割り振ってしまうと、過度なストレスやプレッシャーを感じさせてしまいます。逆に、能力に対して簡単すぎる業務ばかりでは、やりがいを感じられずモチベーションが低下することもあります。このようなミスマッチは、本人の自信喪失を招き、働く意欲を削いでしまう大きな要因です。
周囲の理解不足と孤立感
障がいそのものや、障害特性に応じた必要な配慮(合理的配慮)について、配属先の部署や上司、同僚の理解が不足していることも、定着を妨げる原因となります。
障がいへの偏見や誤解から心ない言葉をかけられたり、「特別扱い」と見なされたりすることで、本人が働きづらさを感じてしまいます。職場に気軽に相談できる相手がおらず、自分の居場所がないと感じる「孤立感」は、精神的な負担を増大させ、最終的に「この職場では働き続けられない」という結論に至らせてしまうのです。
障害者雇用の定着率が高い企業にみられる3つの共通点!
障害者雇用の法定雇用率達成が多くの企業で課題となる中、一部の企業は高い定着率を実現しています。なぜ、それらの企業では障がいのある社員が長く活躍し続けられるのでしょうか。
ここでは、障害者雇用の成功に不可欠な、定着率の高い企業が持つ強みについて詳しく解説します。
共通点① 採用段階で丁寧な相互理解を徹底している
定着率が高い企業は、採用選考を企業が候補者を選ぶ場ではなく、「企業と候補者がお互いを深く理解し、最適なマッチングを見つける」場として捉えています。一方的なスキルチェックに終始せず、対話を重視することで、入社後のミスマッチを未然に防いでいるのです。
具体的には、面接の場で本人の障害特性や得意なこと、苦手なこと、必要な配慮などを詳細にヒアリングします。同時に、企業側も業務内容や職場の環境、チームの雰囲気、期待する役割などを包み隠さず正直に伝えます。
この丁寧なすり合わせを通じて、双方が「ここでなら、共に成長していける」という確信を持って雇用契約を結ぶことが、長期的な定着の第一歩となります。
共通点② 経営層から現場まで全社的な受け入れ体制を構築している
障害者雇用を人事部だけのミッションとせず、会社全体で取り組むべき重要な経営課題として位置づけている点も、高い定着率を誇る企業に共通する特徴です。経営層がダイバーシティ&インクルージョンの重要性を明確に発信し、その理念が現場の隅々にまで浸透しています。
具体的には、受け入れ部署の社員を対象とした障がい理解研修を実施し、漠然とした不安や誤解を解消します。また、障がいのある社員が配属された後も、特定の誰かに負担が偏るのではなく、チーム全体でサポートするという意識が醸成されています。
物理的なバリアフリーはもちろんのこと、こうした「心理的なバリアフリー」が構築されている職場環境こそが、誰もが安心して働ける基盤となります。
共通点③ 入社後も継続的にフォローアップする仕組みがある
採用はゴールではなく、あくまでスタートです。定着率の高い企業は、入社後も社員が安心して働き続けられるよう、継続的なフォローアップの仕組みを制度として確立しています。環境の変化や人間関係、業務への適応など、入社後に直面するであろう様々な課題を早期に発見し、迅速に対処する体制が整っているのです。
例えば、上司や人事担当者との定期的な1on1面談を義務付け、業務の進捗だけでなく、体調やメンタル面の変化についても話し合う機会を設けています。
また、直属の上司には相談しにくい内容に対応するため、先輩社員がサポート役となるメンター制度や、専門の相談窓口を設置しているケースも少なくありません。こうした継続的な関わりが、本人の孤立を防ぎ、長期的な活躍へと繋がっていきます。
明日から実践できる!障害者雇用の定着率を向上させるポイント
ここでは、明日からでも取り組める具体的なポイントを「採用前の準備」「採用選考」「入社後のフォローアップ」の3つのフェーズに分けて解説します。
採用前の準備で定着率は大きく変わる
障害者雇用が成功するかどうかは、採用活動を始める前の「準備段階」で大半が決まるといっても過言ではありません。しっかりとした土台作りが、入社後のスムーズな定着へと直結します。
業務の切り出しとマニュアルの整備
まず、社内のどのような業務を障がいのある社員に任せるかを具体的に検討します。既存の業務を細分化し、特定のスキルや経験がなくても取り組みやすいタスクを「切り出す」作業が重要です。
切り出した業務については、誰が見ても手順がわかるように、写真や図を多用したマニュアルを作成しましょう。作業内容や注意点が可視化されることで、教える側の負担が減るだけでなく、働く本人の不安を解消し、早期の業務習熟につながります。
合理的配慮についての事前検討
障害者差別解消法で企業に義務付けられている「合理的配慮」について、事前に社内で検討しておくことが大切です。
例えば、「聴覚障害のある方なら筆談やチャットツールでのコミュニケーション」「精神障害のある方なら静かな場所での休憩スペースの確保」など、想定される障害特性に対してどのような配慮が可能かをリストアップしておきましょう。あらかじめ選択肢を用意しておくことで、採用時に本人から希望があった際に、スムーズかつ適切な対応が可能になります。
受け入れ部署の社員への研修実施
障がいのある社員が配属される部署のメンバーに対し、事前に研修を行うことは不可欠です。障害特性に関する正しい知識や、コミュニケーションで心がけるべき点などを学ぶ機会を設けることで、現場の社員が抱える漠然とした不安や誤解を解消できます。
全社的な協力体制を築く第一歩として、受け入れ部署の理解と共感を育むことが、温かい職場環境づくりにつながります。
採用選考でミスマッチを防ぐ
採用選考は、企業が候補者を一方的に評価する場ではありません。候補者にとっても、その企業が自分に合っているかを見極める重要な機会です。
相互理解を深め、入社後の「こんなはずではなかった」というミスマッチを防ぐための工夫が求められます。
職場見学やインターンシップの活用
書類や面接だけでは伝わらない、職場のリアルな雰囲気や業務内容を理解してもらうために、職場見学や数日間の就業体験(インターンシップ)の機会を設けることを推奨します。
実際に働く環境を見ることで、候補者は自分がその職場で働く姿を具体的にイメージできます。企業側も、候補者の業務遂行能力や他の社員との相性を確認できるため、双方にとって有益な機会となります。
面接で確認すべきことと感じ取ること
面接では、スキルや経歴だけでなく、本人の特性や必要な配慮について率直に話し合える雰囲気作りが重要です。「どのような業務が得意ですか」「どのような配慮があれば働きやすいですか」といった質問を通じて、本人の自己理解度や希望を正確に把握しましょう。
同時に、本人が安心して話せているか、意欲はどの程度かといった非言語的なサインを感じ取ることも、ミスマッチを防ぐ上で大切な視点です。
入社後のフォローアップ体制を整える
採用はゴールではなく、定着に向けたスタートです。新しい環境に慣れ、長期的に活躍してもらうためには、入社後の継続的なサポート体制が欠かせません。問題が大きくなる前に早期発見・早期対応できる仕組みを構築しましょう。
定期的な面談の実施とルール化
入社後は、本人、直属の上司、人事担当者などによる三者面談を定期的に実施しましょう。特に環境の変化が大きい入社初期は、週に1回、その後は月に1回など、頻度を決めて「ルール化」することがポイントです。
業務の進捗状況、人間関係の悩み、体調面の変化などを共有する場を設けることで、本人が抱える課題を早期に把握し、迅速なサポートにつなげることができます。
メンター制度や相談窓口の設置
直属の上司には相談しにくい業務以外の悩みも気軽に話せる相手がいると、本人の心理的安全性は大きく高まります。年齢の近い先輩社員が業務や会社生活の相談に乗る「メンター制度(ブラザー・シスター制度)」の導入は非常に有効です。
また、人事部などに公式な相談窓口を設置し、「困ったときにはここに相談すれば良い」という安心感を提供することも、孤立を防ぎ、定着率を向上させる上で重要です。
体調変化に気づきやすい環境づくり
障害特性によっては、日々の体調に波がある方も少なくありません。上司や同僚が本人の様子を気にかけることはもちろん、本人から「今日は少し疲れやすいので、休憩を多めに取りたい」といった申告がしやすい雰囲気を作ることが大切です。
日報や簡単なチェックシートなどを活用し、本人が口頭で伝えにくい心身の状態を客観的に共有できるツールを用意するのも、体調変化に合わせた柔軟な働き方を支援する上で効果的です。
障害者雇用の定着率向上に活用できる外部支援サービスはなにがある?
障害者雇用の定着率を高めるためには、社内での取り組みだけでなく、専門的な知識やノウハウを持つ外部機関との連携がとても有効です。
ここでは、定着支援に役立つ代表的な外部サービスをご紹介します。
職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業
職場適応援助者(ジョブコーチ)は、障がいのある方が職場にスムーズに適応できるよう、専門的な支援を行う専門家です。
ジョブコーチが企業に訪問し、障がいのある社員本人に対して業務遂行や職場内コミュニケーションに関する支援を行うと同時に、企業側の指導者や同僚に対しても、障がいの特性に合わせた関わり方や指導方法について助言します。
本人と企業の間に立ち、双方の橋渡し役となることで、職場定着における課題解決を強力にサポートしてくれます。
定着率95%!農業を活用した障害者雇用支援ファーマーズマーケット
近年注目されているのが、企業が農園を借りて障がいのある方を雇用する、農業分野の民間支援サービスです。
このサービスでは、業務の指導から勤怠管理、日々の体調確認までを一貫してサポートします。企業側は、自社内に適した業務を切り出すのが難しい場合でも雇用でき、管理業務の負担を大幅に軽減できるのが大きなメリットです。
ファーマーズマーケットでは、一人ひとりの得意な力を生かせる農業の仕事づくりを進めています。実際に定着率は95%と高く、安心して長く働ける環境が整っています。
気になる方はぜひこちらをご覧ください。
地域障害者職業センター
各都道府県に設置されている公的な専門機関で、障がい者の職業の拠点です。企業に対しては、障害者雇用に関する全般的な相談に応じ、雇用管理や職場環境の整備、合理的配慮の提供方法について専門的な助言や情報提供を行います。
また、受け入れ部署の社員向けの研修プログラムを実施するなど、企業が主体的に課題解決に取り組むための支援も行っています。何から手をつければ良いかわからない、といった初期段階での相談先としても最適です。
障がい者就業・生活支援センター
障がいのある方の「就業面」と「生活面」を一体的に支援する、身近な地域の相談窓口です。
全国に設置されており、「なかぽつ」という愛称で呼ばれています。企業に対しては、雇用している障がいのある社員に関する相談に応じ、安定して働き続けるためのサポートを行います。
特に、本人の健康管理や金銭管理、住まいの問題といった生活面の課題が仕事に影響している場合に、ご本人やご家族、医療機関などと連携しながら課題解決を図ってくれる心強い存在です。
まとめ
障害者雇用の定着率向上は、法令遵守に留まらず、企業の持続的成長に不可欠です。定着率が高い企業は「採用時の相互理解」「全社的な受け入れ体制」「継続的なフォローアップ」を徹底しています。
これらは、障がいのある社員が安心して能力を発揮できる環境づくりの鍵となります。まずは業務の切り出しや研修といった採用前の準備から始め、職場見学や定期面談を通じてミスマッチを防ぎましょう。
ジョブコーチなどの外部支援も活用し、誰もが活躍できる職場を目指すことが重要です。



