農業で障害者雇用を進めたいと考えていても、「季節や天候によって仕事量が変わるけれど、安定して業務を任せられる?」「農機具を扱う現場で安全を確保できる?」「日々の作業をサポートする人員を確保できるか不安」と、農業ならではの課題に悩む企業も多いのではないでしょうか?
この記事では、障害者雇用の現状や法定雇用率、農福連携が注目されている背景を整理したうえで、農業における障害者雇用で起こりやすい6つの課題を解説します。
農業の特性と一人ひとりの得意・不得意に合わせた業務設計や支援体制を整え、安心して働き続けられる職場づくりにつなげましょう。
農業における障害者雇用が注目される背景とは?
近年、農業の分野で障害者雇用の取り組みが大きな注目を集めています。
背景にあるのは、農業界が直面している猛烈な「高齢化」と「担い手不足」です。この課題を解決するため、障害のある方を含めた多様な人材を受け入れ、新たな働き手として活躍してもらう動きが加速しています。
障害者雇用の現状と法定雇用率
障害者雇用促進法により、一定規模以上の企業には、従業員数に応じた障害者の雇用割合(法定雇用率)を満たすことが義務付けられています。
民間企業の法定雇用率は段階的に引き上げられており、2024年4月に「2.5%」へ改定され、2026年4月からは「2.7%」へと拡大しました。
このルールは一般企業だけでなく、一定規模以上の農業法人なども対象となります。そのため、農業の現場でも適切な雇用体制づくりが急務となっているのです。
ただし、ただ雇用人数を増やすだけでなく、現場では「障害特性に合わせた業務の切り出し」や「長く働き続けられる環境の整備」が求められています。
農福連携が広がっている理由
農福連携が急速に広まっている最大の理由は、「農業側」と「障害のある方(福祉側)」の双方に大きなメリットがあるからです。
農業者にとっては人手不足の解消や地域貢献につながり、障害のある方にとってはやりがいを持てる働く場を得るきっかけになります。
また、農作業には以下のようにさまざまな工程が存在します。
- 種まきや苗付け
- 日々の栽培・水やり
- 収穫や選別
- 袋詰め・パッケージ作業
- 出荷準備や清掃
作業を細かく分解(切り出し)しやすいため、働く人の得意分野や手先の器用さ、体力に合わせてピッタリな仕事を見つけやすい点も大きな利点です。
現在は自治体や就労支援機関などのサポート体制も全国で整いつつあり、農業と福祉が手を取り合って安定した就労を支える基盤が広がっています。
農業における障害者雇用の主な課題を6つ解説
農業での障害者雇用には多くのメリットがある一方で、実際の現場では特有の難しさや壁に直面することもあります。
ここでは、雇用を検討・推進する上で知っておくべき「6つの主な課題」と、その具体的な中身について解説します。
① 農作業の繁忙期と勤務時間が合わない
農業は、種まき・苗植え・収穫・出荷といった時期に作業が一気に集中します。
その一方で、働く障害のある方の中には、体力面や通院・服薬管理の関係から「短時間勤務」や「規則正しい一定のペース」での勤務を希望するケースが少なくありません。
繁忙期に集中して人手を確保したい農業側の都合と、安定したスケジュールで働きたい雇用者側のニーズの間で、勤務日数や労働時間のミスマッチが起きやすいのが第一の課題です。
② 天候や季節に左右されやすく業務が安定しない
農作業は、雨、気温の上昇・低下、台風や積雪などの天候に大きく影響を受けます。そのため、予定していた作業が急きょ中止になったり、屋内での別作業へ変更になったりすることが日常茶飯事です。
「毎日決まった手順で進む仕事」を得意とする方や、急な予定変更に強い不安を感じる方、屋外の環境変化で体調を崩しやすい方にとっては大きな負担となります。
作業が中止になった際に、代わりとなる安全な業務(屋内作業など)をあらかじめ確保できるかも重要になります。
③ 農作業中の事故や安全面に不安がある
農園の現場には、鎌などの刃物、農業機械、脚立、農薬、重い収穫箱など、取り扱いに注意が必要なものが多く存在します。また、段差や傾斜、ぬかるみ、水路といった足場の悪さや、夏場の熱中症リスクも潜んでいます。
障害特性によっては、「危険を瞬時に察知すること」「複数の指示を同時に理解して動くこと」「自分の体調変化を周囲に伝えること」が難しい場合もあります。
安全確認や指示出しが不十分なまま作業を任せると、本人だけでなく周りのスタッフにとっても大きなリスクとなってしまいます。
④ 障害特性に応じた合理的配慮が不足しやすい
ひとくちに障害と言っても、身体障害・知的障害・精神障害・発達障害など様々であり、一人ひとり得意な作業や苦手な環境、必要なサポートは異なります。
しかし、農業の現場では障害に関する知識やノウハウが十分に蓄積されていないケースも多く、「どのような工夫をすれば働きやすくなるのか」の調整(合理的配慮)が後回しになりがちです。
作業手順の伝え方(図解マニュアルの用意など)、休憩のタイミング、移動経路の確保など、個別に応じた対応ができないと、本人が持っている能力を十分に発揮できなくなってしまいます。
⑤ 指導担当者や支援人材が不足している
障害者雇用では、単に作業の手順を教えるだけでなく、理解度の確認、日々の体調変化の観察、職場の人間関係への配慮なども欠かせません。
しかし、農業経営者や現場責任者が通常の農業経営と並行してこれらのサポートを全て担うと、業務負担が限界を超えてしまいます。
特に繁忙期は現場が多忙を極めるため、個別に指導したり相談に乗ったりする時間を確保しにくく、指導者によって指示の内容や対応がバラバラになって混乱を招くという課題があります。
⑥ 給与や生産性に関する課題がある
農作業の慣れ具合や体調の波によって、作業スピードやこなせる量には個人差が生じます。
担当してもらう業務を工程ごとに細かく切り出せていないと、職場での役割が曖昧になり、「何を基準に評価すればよいか」が分かりづらくなってしまいます。
企業として適切な賃金を支払う義務がある中で、業務内容や責任範囲が不明確なままだと、給与額や人事評価に対する納得感が生まれにくくなり、働く本人の意欲低下や早期離職につながってしまいます。
農業で障害者雇用を進めるための対策とは
農業の現場で障害者雇用をスムーズに進め、定着率を高めるためには、あらかじめ「働きやすい仕組み」を整えておくことが大切です。
ここでは、現場の課題をクリアし、お互いにとって安心できる環境をつくるための実践的な6つの対策をご紹介します。
勤務時間や休憩時間を柔軟に調整する
障害特性や日々の体調の波に合わせて、勤務日数や労働時間、休憩の取り方を柔軟に設計しましょう。
農繁期と農閑期で業務量が大きく変わる場合でも、本人としっかり相談しながら、負担にならない勤務計画を立てることがポイントです。
長時間の作業や同じ姿勢が難しい場合は、短時間勤務を採用したり、作業時間をこまめに分けたりする工夫が効果的です。また、決まった場所に休憩スペースを確保し、水分補給や体調チェックを行いやすい環境を整えましょう。
安全マニュアルと作業環境を整備する
ケガや事故を防ぐため、作業前には必ず危険箇所や注意点を確認できる「安全マニュアル」を用意します。
農機具や刃物、農薬などの扱い方、禁止事項、万が一の緊急連絡先などを明確にしておきます。
あわせて、農園内の通路を整理整頓する、危険な段差をなくす、作業場所の明るさを確保するといった環境改善も欠かせません。障害のある方だけでなく、現場で働く全スタッフの安全を守る仕組みをつくりましょう。
写真や動画を使って作業手順を見える化する
口頭だけで指示を出すのではなく、写真・イラスト・動画などを活用して作業手順をビジュアル化すると、理解度が一段とアップします。
「準備する道具」「置く場所」「NGな例」など、作業の工程を一つずつ細かく分解して分かりやすく掲示するのがコツです。
マニュアルを誰でも確認できる場所に貼り、指示内容をマニュアル通りに統一することで、教えるスタッフによって説明が変わる混乱も防げます。
定期面談で体調と業務の状況を確認する
採用後は、定期的に1対1で話せる面談の機会を作り、体調の様子や作業の負担感、職場で困っていることがないかを確認しましょう。
本人からは直接言い出しにくいケースも多いため、「毎週金曜日の終業前」など面談のタイミングをあらかじめルール化しておくと安心です。
面談で分かった課題は、本人の同意を得た上で指導担当者と共有し、担当業務の調整や配慮の見直しに活かします。変化に早く気づいて手を打つことが、早期離職や不調を防ぐ最大のカギになります。
業務評価と賃金制度を明確にする
任せる作業内容、求められるクオリティ、評価の基準をあらかじめ明確にし、本人に伝えておきます。
評価項目は「作業スピード」や「こなした量」だけでなく、作業の正確さ、安全ルールの遵守、無遅刻無欠勤といった行動面もバランスよく設定することが大切です。
給与については最低賃金などの法令を守った上で適切に設定し、昇給の条件も分かりやすく示しましょう。「障害があること」を理由にした不合理的差をなくし、頑張りが正しく報われる評価制度をつくります。
ジョブコーチや就労支援機関と連携する
社内だけのノウハウで対応しようと抱え込まず、外部の専門機関を積極的に頼りましょう。
訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)やハローワーク、地域障害者職業センターなどに相談することで、採用前の体験実習の実施、作業内容の切り出し方へのアドバイス、定着に向けた伴走支援を受けられます。
支援機関と連携する際は、本人の同意のもとで配慮事項や状況を共有し、「企業・本人・支援機関」の3者で連絡を取り合いながらサポート体制を作っていくのが理想的です。
障害者雇用支援「ファーマーズマーケット」を活用する
自社のみで農場の整備や手厚いサポート体制を構築するのが難しい場合は、専門の雇用支援サービスを活用するのもおすすめです。
株式会社ファーマーズマーケットでは、初期費用や設備投資が0円でスタートできる農場型の障害者雇用支援を提供しています。採用前に「2週間の現場実習」を行うことでミスマッチを防ぎ、採用後も専門スタッフが伴走するため、平均定着率は95%と非常に高い実績を誇ります。
「何から始めるべきか分からない」「初期コストを抑えて安全に運用したい」とお悩みの企業様は、ぜひ一度ご相談ください。
障害者雇用で活用できる支援制度は何がある?
障害者雇用を進める際は、採用や職場定着、設備の整備などに活用できるさまざまな支援制度があります。企業側の負担や現場の不安を軽減するためにも、自社が利用できる制度をあらかじめ確認しておきましょう。
ハローワークによる職業紹介と雇用支援
ハローワークでは、障害のある人に向けた職業紹介や求人相談、職業相談を行っています。事業主に対しては、障害者求人の登録、採用に関する相談、面接への同行、職場定着に向けた支援などを実施しています。
農業法人や農家が求人を出す際は、作業内容、勤務時間、必要な体力、通勤方法などを具体的に伝えることが重要です。障害者トライアル雇用を活用できる場合は、一定期間の試行雇用を通じて、業務への適性や職場との相性を確認できます。
地域障害者職業センターの専門的支援
地域障害者職業センターでは、障害のある人に対する職業評価や職業準備支援、職場適応支援を行っています。事業主からの相談にも対応しており、障害特性に応じた業務の切り出しや職場環境の整備について助言を受けられます。
採用後には、職場適応援助者であるジョブコーチが本人と事業主の間に入り、作業手順の習得やコミュニケーションを支援する場合があります。
就労移行支援と就労継続支援の活用
就労移行支援は、一般就労を希望する障害のある人に対し、職業訓練や求職活動、職場定着に向けた支援を行う福祉サービスです。農作業を訓練に取り入れている事業所もあり、採用前の職場見学や実習につながることがあります。
就労継続支援A型・B型は、一般企業での就労が難しい人に働く機会や訓練を提供するサービスです。農業法人が作業を委託したり、農福連携の取り組みとして作業交流を行ったりすることで、障害のある人が農作業に関わる機会を広げられます。
これらは通常の雇用契約とは異なる支援形態も含まれるため、雇用と福祉サービスの違いを確認したうえで、地域の事業所や相談支援機関に相談する必要があります。
障害者雇用納付金制度に基づく助成金
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、障害者雇用納付金制度に基づく助成金を取り扱っています。助成対象や申請要件に該当すれば、障害者作業施設の設置・整備、介助者の配置、通勤対策、職場適応援助者の支援などにかかる費用の一部が助成されます。
農業では、作業場や休憩場所の整備、設備の導入、通勤手段の確保などが対象となる可能性があります。助成金の種類ごとに対象経費や申請期限が定められているため、導入前に管轄の窓口へ確認することが大切です。
農福連携を支援する自治体や農業団体の制度
国や都道府県、市区町村では、農業と福祉の連携を促進する農福連携事業を実施しています。事業内容は地域によって異なりますが、農業者と福祉事業所のマッチング、作業体験、専門家による相談、研修会、農業設備の整備支援などが行われる場合があります。
自治体の農政担当課、障害福祉担当課、都道府県の農業協同組合、農業普及指導センターなどに相談すると、利用可能な制度を確認できます。制度の募集時期や対象者、補助内容は年度によって変わるため、最新の公募情報を確認しましょう。
まとめ
農業における障害者雇用には、繁忙期や天候による勤務の変動、安全確保、障害特性に応じた配慮、指導人材の不足などの課題があります。安定した雇用を実現するには、作業を細分化し、勤務時間を柔軟に調整するとともに、写真や動画による手順の見える化、安全マニュアルの整備、定期的な面談を行うことが重要です。さらに、ハローワークや地域障害者職業センター、就労支援機関と連携し、農業者だけで抱え込まない体制を整えましょう。



