「障害者雇用の義務達成が難しい」「何か猶予措置はないだろうか」とお悩みの企業担当者様へ。
まず、障害者雇用義務が完全に免除される制度はありません。しかし、一般的に「猶予」と呼ばれる、特定の業種において雇用義務が軽減される「除外認定制度」は存在します。
本記事では、この除外認定を受けるための条件や、除外率を用いた計算方法、ハローワークへの申請手続きまでを網羅的に解説。条件に当てはまらない場合の具体的な対策も紹介するため、自社が次に取るべき行動が明確になります。
この記事を読むと分かること
- 障害者雇用義務に猶予制度はある?
- 猶予を受けるにはどんな条件がある?
- 除外認定を受けられない場合どうすればいい?
猶予の前に知っておきたい障害者雇用義務の基本
障害者雇用義務の猶予制度(除外認定制度)について理解を深める前に、まずはその基本となる「障害者雇用義務」の仕組みを押さえておくことが大切です。
ここでは、すべての事業主が知っておくべき法律の概要と、義務を果たせなかった場合の措置について解説します。
障害者雇用促進法と法定雇用率
障害者雇用義務は、「障害者雇用促進法」によって定められています。
この法律は、障害のある方が能力や適性に応じて働き、安定した職業生活を送れる社会の実現を目的としています。そのため企業には、「法定雇用率」以上の割合で障害者を雇用する義務があります。
法定雇用率は事業主の区分ごとに定められており、定期的に見直されます。2024年4月からは、民間企業の法定雇用率は2.5%に引き上げられました。
また、従業員が40人以上いる企業は、障がい者を1人以上雇用する義務の対象となります。まずは、自社が対象かどうかを正しく把握することが重要です。
義務を達成できない場合の障害者雇用納付金制度
法定雇用率を達成できなかった企業には、「障害者雇用納付金制度」によるペナルティがあります。
この制度は、企業全体で障害者雇用を支えるという考え方に基づいた仕組みです。未達成の企業から納付金を集め、そのお金を、法定雇用率を超えて障がい者を雇用している企業への助成金として活用します。
納付の対象となるのは、従業員が100人を超える企業です。法定雇用率に満たない場合、不足している障がい者1人につき、月額50,000円を納付する必要があります。
つまり、1人不足するごとに年間で60万円の負担が発生します。
この納付金は単なる罰金ではなく、障害者雇用を社会全体で支えるための仕組みとして設けられています。
障害者雇用義務に「猶予」はあるの?
障害者雇用義務の達成に課題を感じている企業にとって、「義務を猶予してもらえないか」という考えが浮かぶこともあるでしょう。しかし、法律上、一般的な意味での「猶予期間」は存在するのでしょうか。
この章では、障害者雇用義務における「猶予」という言葉が何を指すのか、その基本的な考え方について解説します。
一般的に「猶予」とは除外認定制度を指す
結論として、障害者雇用促進法には、企業の事情によって義務を一時的に免除したり、期限を延ばしたりする「猶予制度」はありません。対象となるすべての企業は、法定雇用率を達成する義務があります。
ただし、「猶予」のように見える仕組みとして「除外認定制度」があります。
これは、障害のある方が働くことが難しい業務がある場合に、その分の労働者数を計算から差し引ける制度です。この制度により、結果的に必要な雇用人数が少なくなるため、実質的な負担軽減措置として「猶予のような制度」と捉えられることがあります。
なぜ除外認定制度が設けられているのか
世の中にはさまざまな仕事がありますが、中には業務の性質や安全上の理由から、障害のある方が働くことが難しい職種も存在します。
例えば、船舶の乗組員や航空機の客室乗務員、建設現場での高所作業員などが該当します。こうした業務を多く抱える業種に対して、他の業種と同じ基準で雇用義務を課すのは現実的とはいえません。
そのため、業種ごとの実情に合わせて負担を調整し、公平な制度とするために除外認定制度が設けられています。
障害者雇用義務の猶予(除外認定)を受けるための条件とは?
障害者雇用義務の「猶予」として知られる除外認定制度は、どの企業でも受けられるわけではありません。この制度を利用するには、厚生労働省が定める特定の条件を満たす必要があります。
ここでは、その唯一の条件と、認定された場合に法定雇用障害者数がどのように変わるのかを具体的に解説します。
条件は「除外率設定業種」に該当すること
除外認定を受けるには、自社の事業が「除外率設定業種」に該当している必要があります。
除外率設定業種とは、業務の性質上、障害のある方が働くことが難しいとされている特定の業種のことです。
この制度は、雇用義務そのものを免除するものではありません。あくまで、法定雇用障害者数を計算する際に、労働者数の一部を差し引くことで、企業の負担を軽減する仕組みです。
除外率が設定されている業種一覧
2024年現在、除外率が設定されている業種とそれぞれの除外率は以下の通りです。これらの業種は、危険性が高い、あるいは特殊な技能や体力が求められるといった特徴があります。
- 船舶運航業(船員が乗り組む船舶):80%
- 林業(林木伐採の事業):50%
- 鉱業:40%
- 建設業:30%
- 旅客自動車運送業、貨物自動車運送業:30%
- 非鉄金属第一次製錬・精製業、第二次製錬・精製業:30%
- 航空運輸業:15%
- 水運業(船舶運航業を除く):10%
なお、これらの除外率は段階的に引き下げられており、将来的には廃止される方針が示されています。最新の情報は厚生労働省やハローワークの公式サイトで確認することが重要です。
自社の業種が該当するか確認する方法
自社の事業が上記の除外率設定業種に該当するかどうかを正確に判断するには、まず自社の事業内容が日本標準産業分類においてどの業種に分類されるかを確認する必要があります。
その上で、最終的な判断や具体的な手続きについては、事業所を管轄するハローワークの専門窓口に問い合わせて確認するのが最も確実な方法です。
除外率を用いた法定雇用障害者数の計算方法
除外認定を受けると、法定雇用障害者数の計算方法が変わります。具体的には、常用労働者の総数から「除外率相当労働者数」を差し引いた数に、法定雇用率を掛けて算出します。
計算式は以下の通りです。
(常用労働者数 - 除外率相当労働者数) × 法定雇用率 = 法定雇用障害者数
※除外率相当労働者数 = 対象業種の労働者数 × 除外率
※算出された法定雇用障害者数の小数点以下は切り捨てます。
例えば、常用労働者数が100人の建設業(除外率30%)の企業の場合、法定雇用率を2.5%として計算してみましょう。
まず、除外率相当労働者数を計算します。
100人 × 30% = 30人
次に、この人数を常用労働者数から差し引きます。
100人 - 30人 = 70人
最後に、この70人に法定雇用率を掛けます。
70人 × 2.5% = 1.75人
小数点以下を切り捨てるため、この企業が雇用すべき障がい者の数は「1人」となります。もし除外認定がなければ「100人 × 2.5% = 2.5人」で「2人」となるため、義務が1人分軽減されることがわかります。
障害者雇用義務の猶予(除外認定)を受けるための申請方法!
障害者雇用義務の猶予、すなわち除外認定制度は、条件に該当すれば自動的に適用されるものではありません。制度の適用を受けるためには、事業主が自ら所定の手続きに沿って申請を行う必要があります。
ここでは、除外認定を受けるための具体的な申請方法を3つのステップに分けて解説します。
ステップ① 必要書類の準備
まず、申請に必要な書類を準備します。
中心となるのは「除外率認定申請書」です。この申請書は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードするか、管轄のハローワークで入手できます。
加えて、申請書には事業内容や常用労働者数を確認するための添付書類が必要です。具体的には、以下のような書類が求められます。
- 会社の定款、寄付行為、登記簿謄本、会社案内パンフレットなど事業内容がわかる書類
- 労働保険概算・確定保険料申告書(写)など、常用労働者数がわかる書類
申請にあたっては、自社の事業内容が除外率設定業種に該当することを客観的に証明できる書類を正確に揃えることが重要です。
不明な点があれば、事前に管轄のハローワークに問い合わせておくとスムーズです。
ステップ② ハローワークへの提出
必要書類一式が準備できたら、事業所の所在地を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に提出します。提出方法は、
窓口への持参または郵送が一般的です。提出先や提出方法の詳細は、管轄のハローワークにご確認ください。
申請には期限が設けられているため、期間内に確実に提出することが不可欠です。余裕を持ったスケジュールで準備を進めましょう。
ステップ③ 認定の通知
申請書類がハローワークで受理されると、都道府県労働局にて内容の審査が行われます。審査の結果、除外率設定業種に該当すると認められれば、事業主宛に「除外率認定通知書」が送付されます。
この認定は、申請を行った年の6月1日から翌年の5月31日までの1年間有効となります。
認定されなかった場合は、不認定の通知が届きます。その際は、法定雇用率に基づき障がい者を雇用する義務を果たす必要があります。
申請時期と注意点とは?
除外認定の申請には、特に注意すべき点がいくつかあります。最も重要なのは、申請時期と更新手続きです。
除外認定の申請期間は、例年3月15日から4月15日までと定められています。この期間を過ぎてしまうと、その年度の認定は受けられませんので、期限厳守が絶対条件です。
また、この認定は一度受ければ永続するものではなく、毎年申請手続きを行う必要があります。事業内容に変更がない場合でも、年度ごとに改めて申請し、認定を受け直さなければなりません。
申請を忘れると、たとえ条件を満たしていても猶予は適用されないため、毎年のタスクとして管理することが大切です。
猶予条件に当てはまらない場合の選択肢
障害者雇用の除外認定制度は、特定の業種に限られた制度です。そのため、多くの企業は法定雇用率の達成義務を負うことになります。
ここでは、猶予条件に当てはまらない企業が検討できる3つの方法をご紹介します。
障害者雇用調整金や報奨金制度の活用
法定雇用率を超えて障がい者を雇用している企業に対しては、国から金銭的な支援が行われます。これは、障害者雇用納付金を財源として、障害者雇用を積極的に進める企業にインセンティブを与える制度です。
常用労働者数が100人を超える企業の場合、法定雇用率を超えて雇用している障がい者1人につき月額29,000円の「障害者雇用調整金」が支給されます。
一方、常用労働者数が100人以下の企業の場合は、各月の労働者総数に応じた人数を超えて障がい者を雇用している場合に、1人につき月額21,000円の「報奨金」が支給されます。
これらの制度を活用することで、雇用にかかる経済的な負担を軽減しながら、社会貢献を推進することが可能です。
特例子会社制度という選択肢
「特例子会社制度」とは、企業が障がい者の雇用に特別な配慮をした子会社を設立し、一定の要件を満たすことで、その子会社で雇用した障がい者を親会社の雇用分として合算できる制度です。
親会社とは別の法人格を持つため、障がい者の特性に合わせた職場環境や業務内容、労働時間を柔軟に設定しやすいという大きなメリットがあります。
また、専門の支援スタッフを配置することで、きめ細やかなサポート体制を構築でき、障がい者の安定した就労と定着が期待できます。自社の事業内容や職場環境では直接雇用が難しいと感じている企業にとって、グループ全体で障害者雇用を推進するための有効な手段といえるでしょう。
初期費用、設備投資費0円!採用から担当してくれる障害者雇用支援の魅力
障害者雇用のノウハウがない、あるいは受け入れ部署の確保が難しいといった課題を抱える企業には、外部の支援サービスを活用する方法もあります。その一つが、近年注目されている農業型の障害者雇用支援サービスです。
例えば「ファーマーズマーケット」のようなサービスでは、企業はサービス事業者が運営する農園を借り、そこで障がい者を雇用します。
魅力は、採用活動から入社後の定着支援、日々の労務管理までを専門スタッフが全面的にサポートしてくれる点です。企業側は、設備投資や専門知識がなくても障害者雇用をスタートでき、採用や管理の負担を大幅に軽減できます。
障害者雇用の進め方に迷ったときにはぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
本記事では、障害者雇用義務の猶予、すなわち除外認定制度の条件や申請方法について解説しました。
この制度は、船員のように障がい者の就業が一般的に困難と認められる特定の業種において、雇用義務の負担を公平に調整するために設けられています。
自社が除外率設定業種に該当するかを確認し、条件を満たす場合はハローワークへ申請しましょう。もし条件に該当しない場合でも、特例子会社の設立や外部の雇用支援サービスなど、障害者雇用を推進するための選択肢は複数あります。
自社の状況に合った方法を検討し、法定雇用率の達成を目指すことが重要です。



