麻製品とその収益・経済性

麻から生み出される製品

麻からバイオエタノール

麻を原料としてバイオエタノールを生産した場合、他のトウモロコシや麦等の食用植物を原材料としない為、食料価格への影響も無く、また、3ヶ月で3メートルにも成長する為に最適であり、逆浸透膜を利用したバイオエタノール製造プラントを利用した場合、抽出したエタノールに放射性物質は移転しない。
(東京大学工学博士・京都大学名誉教授・NPO法人環境・エネルギー・農林業ネットワーク理事長 芦田譲)


麻から製紙産業

2010年の統計では、日本国内での紙・板紙生産量は2729万トン、世界全体では3.9億トンにのぼります。世界の紙・板紙の生産量は2015年には約4,6億トンに増えると予想され、その供給の為に必要な木材資源を森林に置き換えると、新たに2000~3000万ヘクタールもの面積が必要とされています。これは日本の森林面積2500万ヘクタールに相当する大きさであります。世界の森林面積の38,7億ヘクタールの6%にもなります。日本では2010年度の年間の紙・板紙生産量2729万トンのうち、63.1%に相当する1721万トンが古紙をリサイクルしたもので、残りの約1000万トンの新たに生産されたパルプのうち、90%は木材を原料としています。3ヶ月で約3メートルに成長する麻を利用すると成長に十数年を要するパルプ用木材の伐採は不要となる可能性があります。


麻からプラスチック

1949年には、米国フォードでは既に麻を主原材料とした植物性プラスティックを自動車部品として使用していました。そして、現在では、前述の様に既に麻栽培が解禁されているドイツの主要自動車メーカーであるベメルセデスベンツ、BMW、アウディー等の車体内装に利用されています。植物性プラスティックの特質すべきと特徴は、廃棄後、土に埋めて100年経過しても原型を保っている従来の化石燃料系プラスティックとは異なり、土中に埋めると植物性プラスティックは微生物や自然環境によって生分解される、原材料そのものが自然に帰る為に環境に最適です。


麻から建材

同じく麻栽培が解禁されているヨーロッパでは、カスノモーズやデルモハンフと呼ばれる麻チップ、水、石灰から作られた弾力性と断熱性が高く、コンクリートと同様に枠型に流し込むと言う非常に高い加工性を持った建築材料が広く使われています。


上記は現在海外で行われている麻の典型的な利用方法ですが、我が国にはこれらに加えて前述の通り古来より、神社仏閣、相撲等の日本文化の象徴として、そして蚊帳、寝具,衣料品、食品、和紙、畳等の様に、広くの生活に溶け込んで活用されてきました。

とちぎしろ

日本では、1981年に繊維品質維持のための新品種を栃木県農業試験所と九州大学薬学部が共同開発した「とちぎしろ」を登録、現在は無毒大麻として知られているばかりでなく栃木県農業試験場が原種を管理し、毎年、栽培農家に配布して、低THCと繊維品質を維持しているにも関わらず日本では麻の栽培免許の取得は非常に困難です。


ファイトレメデレーション

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後、セシウム-137、ストロンチウムなどの放射性物質により周辺の土壌は汚染され、さらに食物連鎖により植物や動物に汚染物が取り込まれました。チェルノブイリ周辺では汚染物を土壌から取り除くために、ファイトレメディーションと呼ばれる技術が利用され、産業用大麻が土壌や水中から汚染物質を吸い上げて分解するという特性を利用して、環境を修復、浄化しています。

収量と経済性

栃木県の麻農家、大森由久氏の1反(約300坪)当たりの生産高は、神社や相撲協会等の文化的用途向けの高品質なものの出荷と言うこともあり、収量は約90万円程度との事ですが、2000年の資料に拠ると、栃木県では生茎の収量は1反当たり、1.7~2.5トンで乾燥茎重は500~600kg、精麻は50~60kg、オガラは400kg程度である。精麻は品質に依って価格差が大きい為、キログラム当たり\8,000~10,000、オガラは\250/kgなので、1反当たりでは精麻が50万円、オガラが10万円程です。


生茎 1.7~2.5トン/反
乾燥重量 500~600kg/反
皮麻(表皮を剥いだもの) 150~180kg/反
精麻(繊維を取り出したもの) 50~60kg /反 (¥8,000~¥17,000/Kg)
オガラ(茎芯部) 400kg/反 (¥250/Kg)
種子 kg/反 (¥150/㎏)
50万円 ~ 約90万円/反

2003年度のヨーロッパでの繊維部と木質部を分離する一時加工工場からの出荷価格は以下の通り。


建材やプラスティック強化材としての工業原料繊維 ¥75,000~90,000/t
紡績用繊維 ¥150,000~180,000/t
パルプ用繊維 ¥40,000/t
茎芯(木質部のコア) ¥30,000/t
種子 ¥35,000~45,000/t

これらの数値を元にヨーロッパでは生産から一次加工までを一環して行い、農地に加工工場を併設すると言う産業用原料のメーカーとしてのビジネスが既に採算に乗っています。具体的には500ヘクタール(約5,045反)の栽培地から収穫される大麻を加工することで、1回の作付け当たりで種子が500t、150円/kgとして7500万円、繊維が1000t、100円/kgとして1億円、木質部が2200t、35円/kgとして7700万円、麻クズが400t、10円/kgとして400万円、計2億5600万円の売上が見込めます。また、この農場と加工工場を併設した事業の場合、従来の農業のように労働需要が収穫期に集中して発生するのではなく、栽培、加工、販売と言った安定的な労働需要が見込める為、被災地域の雇用促進に最も有効と思われます。
但し、日本の場合は大麻取締法に拠り、登録目的以外の使用は禁止されている為に複数目的の設定が可能な「大麻生産特区」の設定が求められます。